2010年8月30日月曜日

ある夏の終わり

ある夏の終わり。


彼にしてみたら記憶は無いだろうけれど、僕は君が小さい頃から知ってる。
名前はフク。

鈴木家にやってきた時。
出世魚であるスズキは大きくなる度に名前を変え、スズキの前は「フッコ」という名前であり、そこから転じて君はフクという名前になったんだよ。

おいおい。
散歩の途中で日陰に隠れて、バテてる場合じゃないよ!

バテてるのは犬だけじゃない。
そう。僕だって同じ。
実家の下の川で、久々に沈んだ。
それでも頭だけ出して、時の流れと川の流れに勇敢に立ち向かうんだ。


流れたのは、僕の時間だけじゃない。
昔、ビックリマンチョコを買っては、チョコだけを捨てた思い出の駄菓子屋。
昔、友達がおじいちゃんからもらった5000円を一緒になって全てガチャガチャに注ぎ込んだ思い出の駄菓子屋。(その後、親と一緒に友達の家に返金に行く事に....)

そう。あの、優しい駄菓子屋のおばさんも、既に90才。
それでも起きてる間は店を開けている。


開けているのは、何もおばさんの店の入り口だけではない。

僕はおばさん(既に90歳のおばあさん)に頼み込んで、もう使われていない店の奥に、
何か古い商品は眠っていないかと散策していた。

暗闇で、商品にかぶったほこりと、自分の思い出をシンクさせながら学習帳なんかを見ていた時のこと。
外から中学生らしき男の子達の声がした。
さらに僕の思い出は、青臭い声とシンクして暗闇でニヤニヤしてしまった。

2人の中学生が、ほこりと昭和の積もった駄菓子屋に入ってくるのを、彼らが気付かない店の奥の暗闇で僕は背中で感じていた。

振り返ると、90歳の店のおばさんは、16年前に僕を接客した様に1人の中学生に接していた。
もう一人の中学生は、自分の大きなバックの口を開けて、あばさんに見えない所で
アイスを次々と万引きしていた。

「おい!」

人生で最もナチュラルなツッコミが滑る様に僕の口から出て行った。
中学生にしてみたらゴミ置き場のような暗闇から、28歳の男が出て来たものだから、
びっくりして謝りながらアイスを戻して、さよならして行った。

「世の中全ての万引きを止める力があれば、私はとっくに戦争を止めている」

この言葉が誰の言葉かを追求する必要性は低い。
ただ僕は、おばさんが危うく損する所だったアイス代以上の金額を払って、ほこりまみれの学習帳と、
昔買いそびれた下敷きと意味不明な鉛筆を買って店を後にした。



翌日。
僕は富士吉田口の5合目で、読書をしながら富士山を愛でていた。

そして日没。


ある夏の終わり。
学校はもう再開したらしいけど、やはり再開は8/31が醸し出す悲哀を待ってからにしてほしいよね。

夏の悲哀と言えばセミ。
今年は愛の期間が長そうだね。
おかげでこちらは心地よい夏バテだよ。